『紅さすライフ』というドラマをご存知ですか?
2023年日テレ系の夏クールに、”シンドラ”と呼ばれていた月曜深夜の30分の連ドラ枠で放送されていたドラマです。
“シンドラ”は、ジャニーズ事務所(→SMILE-UP.→STARTO ENTERTAINMENTと名前はいろいろ変わりましたが)所属のタレントが主演はもちろん数多く出演していたドラマ枠(2017年に始まり2024年で終了)です。
なので、基本的に視聴者は、事務所のタレントを好きな人たちに偏っており、この枠で放送されているドラマはそこまで一般認知度は高くない印象があります。
そんな”シンドラ”枠で2023年の夏クールに放送されていたのが『紅さすライフ』。
主演は、なにわ男子の大西流星さんで、ヒロイン役が俳優の井桁弘恵さん。Sexy Zone(現Timelesz)の松島聡さん、ジュニアで当時少年忍者に所属していた(現在はACEesに所属)深田竜生さんなどが出演していました。
当時、大西流星さんをウォッチしてたので、このドラマも観ていたのですが、今でも印象に残っているんですよね。それは、多様性をただ「そこにあるもの」として置いて、ストーリーが進み、そのまま結末を迎えたドラマだったから。TVerで配信されているのを見かけて、当時感じていたことを残しておこうと思い、この記事を書いています。
※ドラマの内容詳細には触れませんが、ネタバレ前提の内容になります。
ドラマにおける多様性の描き方
ドラマにおける多様性の描き方には、いろんなアプローチがありますが、2023年当時は、「物語の核」として置くやり方が多かったように思います。
例えば、年の差恋愛に悩む、とか、同性愛者である主人公が葛藤する、とか、マイノリティとされる人が周囲の無理解と戦う、とかが、物語の主題として描かれるドラマ。
『紅さすライフ』は、その真逆であり、多様性をただ「そこにあるもの」として置いて、ストーリーが進み、そのまま結末を迎えたドラマでした。だからこそ、今でも印象に残っています。
『紅さすライフ』概要
改めて、『紅さすライフ』がどんなドラマかと言いますと…「ワケありメイク男子(大西流星さん)と雑草魂すっぴん女子(井桁弘恵さん)の凸凹男女バディによるコスメ業界を舞台にした、新時代の起業青春ラブコメ」です。
もうまさに主演の大西流星さんの個性を活かすために設計されたドラマ。主題歌は、もちろんなにわ男子で、タイトルもドラマに合わせて「Make Up Day」
朝から、丁寧にスキンケアをして、しっかりメイクをして出かける美容意識高い系の大学生・北條雅人を演じるのが、大西流星さん。芯は強いけれどどちらかというと繊細で器用なタイプではない。
朝ギリギリまで寝ていて、寝癖を手で押さえながらすっぴんのまま出かける理系ポスドク・皆本頼子を演じるのが、井桁弘恵さん。思いのままにまっすぐな猪突猛進タイプ。
そんな正反対な2人がひょんなことから、コスメ業界で一緒に起業を目指す物語。
主人公の雅人は、大手化粧品会社・ペガサス化粧品の御曹司なんだけど、父親との折り合いが悪かったり、仲のよい異母兄・一馬(松島聡さん)とあることがきっかけで途中ギクシャクしたり、起業したもののなかなかうまくいかなかったり(父親に邪魔もされる)、なんやかんやとありながら、バディである頼子と時にぶつかり合いながら、一緒に夢に向かって一つずつステップを駆け上がっていく…みたいな話。
物語が進むにつれて、雅人と頼子の間には、恋愛感情が芽生えていくのですが、恋敵が現れたり、度々すれ違ったり、恋にまつわるアレコレが視聴者を「も〜」っとじれったく切なくさせつつ、最後にはハッピーエンドを迎えます。
多様性を”語らない”という表現
それでは、この『紅さすライフ』は、どのように多様性を扱っていたのでしょうか。
性別
主人公の雅人はメイク好きであり、ヒロインの頼子はすっぴんでずぼらです。”正反対”の設定ではありますが、「男性なのに」メイク好き、「女性なのに」すっぴんでずぼらと、性別を必要以上に強調して説明はしていません。外見への関心や生活態度を性別と結び付ける固定観念を前提にしていない描き方だと感じます。
雅人と頼子は「男性/女性だから」ではなく、「美容に熱心な人」と「美容に無頓着な人」という関心や性格の違いによって対比されており、性別に基づく役割や期待から自由な人物像として描かれています。そのため、この作品の「正反対」は男女差ではなく、あくまで個人差として表現されている点に特徴があります。
年齢差
主人公の雅人は22歳、ヒロインの頼子は29歳であり、頼子が7歳年上の設定です。物語が進むにつれて、恋愛関係へと発展していくのですが、そのプロセスで「年上女性と年下男性」という関係性そのものが、必要以上にクローズアップされたり、恋愛の葛藤や障壁としては描かれていません。
自分の中の生じる恋愛感情に戸惑ったり、すれ違いから胸を痛めたりすることはありますが、「年下の僕が」とか「私の方が年上だし」と、年齢を気にかけて悩むことはありません。作中では年齢差よりも二人の性格や関係性の変化に焦点が当てられており、一人の対等な個人同士として描かれている点に、多様性を尊重する姿勢が見られます。
恋愛対象の性別
物語の後半に、主人公の雅人に恋心を抱く人物としてモデル・八巻光が登場します。そこで、頼子が「雅人と光が互いに想い合っている」と勘違いして雅人と頼子がすれ違うなど、恋の三角関係が描かれ、物語を盛り上げていくのに、光は欠かせないキャラクターです。
この八巻光は、深田竜生さん(当時少年忍者、現在ACEesに所属)が演じています。光の恋愛対象は男性である雅人ですが、この作品では、光が雅人に恋心を抱いていることは描かれるものの、「男性が男性を好きになること」自体が特別な問題や説明の対象にはなっていません。光に好意を寄せられる雅人も、光が雅人を好きあることに気づく頼子も、「え、男性が男性を?」といった恋愛対象の性別によって戸惑うような描写は一切ありません。光は「同性を好きなキャラクター」としてではなく、物語を動かす一人の人物として描かれており、恋愛対象の性別について必要以上に語らないことで、多様な恋愛のあり方が大前提としてそこに置かれています。
まとめ
性別、年齢差、恋愛対象の性別——『紅さすライフ』は、これらをどれも粒立てて語らないドラマでした。
雅人がメイク好きであることも、頼子が7歳年上であることも、光が雅人に恋心を抱いていることも、誰かが立ち止まって言及するようなことではありませんでした。声高にメッセージを掲げることなく、葛藤の種として消費することもなく、ただそこにある、それだけのこととして、登場人物たちの世界の中に、多様性がただ静かに溶け込んでいたように感じました。多様性を「描く」ことと、多様性を「当然として描く」ことは、似ているようで全然違います。前者はどうしても、「これは特別なことです」という前提を少なからず内包しますが、『紅さすライフ』は後者を選んだドラマだったと思います。
2023年の”シンドラ”枠という、どちらかというとタレントのファンに向けた作品であることを考えると、なおさら印象に残ります。狙って作ったのか、自然とそうなったのかはわからないけれど、結果としてこのドラマが残したものは、思ったよりも大きかったんじゃないか、と感じています。
多様性が当たり前に、ただそこにある——そんなドラマの空気感が好きだったなぁと、TVerで見かけて、久しぶりに思い出しました。

